アホブランコ スペインの伝統にんにくスープの歴史
アホ・ブランコとは?
スペインの伝統的な冷製スープといえばトマトやパプリカの赤いスープ、ガスパチョが有名かもしれない。
しかしスペインの有名な冷製スープは、赤だけでなくもう一つ白いのがある。それが今回のアホブランコだ。
このスープはガスパチョの前身とも考えられている。なんとルーツはローマ時代にまで遡り、また、ムーア料理の伝統でもあるヨーロッパの中でもかなり古くからのハイブリッドな料理である。
ムーア料理?
これはイスラム教徒であるムーア人の料理だ。アルハンブラ宮殿があるようにスペインのあるイベリア半島はイスラムとのつながりが歴史的に強く、それが料理にも残っているわけだ。
地域的にはスペイン南部。特にアンダルシアとエクストレマドゥーラ地方の冷製スープである。この辺もレコンキスタ、いわゆるヨーロッパ勢力による国土回復運動で、イスラム勢力が最後まで残っていた名残りを歴史好きの方には思わせるところじゃないだろうか。
ガスパチョより古い
さて、ガスパチョをここで考えてもらいたい。トマト、パプリカ。これは南米から来た、つまりコロンブスの大航海時代以降である。
そういうことなのでヨーロッパ料理にトマトが導入される以前から存在していたアホブランコはガスパチョの先輩ともいえるだろう。
余談であるが、アジョブランコということもある。ただそれは発音の違いで同じものを指す。jの発音がスペイン語では地域によってhやjの発音に変わることがあるためだ。
スペイン語を勉強した人などはわかるかもしれないが先生がスペイン本国か、また南米のどの国かで、それによってアルファベットの発音に違いがあったりする。。
材料
アーモンドの選び方はこの料理にこだわる場合は重要なポイントだ。
バターのような豊かな風味で知られるスペイン産のマルコナ種のアーモンドを使うのが通といえるだろう。
が、普通のアーモンドでも特に問題なく美味しいので、初心者はそんなに気にしなくてもいいと思う。
(スペイン産の食品を日本で買おうと思ってもたまにニンニクが売っているくらいなのが現実であるし…)
一般的な材料は、湯通ししたアーモンド、ニンニク、古くなった白パン、エクストラヴァージンのオリーブオイル、水、のたった五つだ。
そして添え物としてはブドウやメロンが使われることもある。この辺は地域的なバリエーションで入っていなかったり入っていたりだ。
マラガでは、アホブランコにモスカテルを添えるのが一般的だが、アンダルシアの他の地域ではメロンを使う。使用するアーモンドの種類も、地方によって異なりスープの味や、食感に影響する。
エストレマドゥーラ州ではアーモンドを一切使わず、ニンニクを多めに使うことが多い。
アホブランコの調理法
調理手順
アホブランコを作るにはまず湯通ししたアーモンドをニンニクと一緒にペースト状にする。
その後、水に浸した古くなったパンを加える。なじませながら、オリーブオイルをゆっくりと垂らし、材料を乳化させる。
好みの固さになるように水を加え、酸味のために酢を加える。スープは冷やされ、ブドウやメロンが添えられる。
こつ
こつとしては、
スープの白色を出すために、通常はブランチングしたアーモンドを使う。
オリーブオイルは、マヨネーズのようなエマルジョンの状態にするために、混ぜ合わせる際にゆっくりと垂らす。
スープを数時間冷やし、味をなじませることが重要。
古くなったパンを浸しておくと、スープにスムーズに溶け込む。
ちなみに伝統的な調理法はアーモンドとニンニクをすり鉢と乳棒ですりつぶすというものだ。トンカツのゴマソースを作るのが好きでゴマの磨り潰し用の道具があるなどの人は、是非この料理を作る際にも使えるのでおすすめだ。
実際そうした方がミキサーなどの近代的なキッチン用品を使うよりも美味しい食感と風味をもたらすと主張する人も多いようだ。
(なんとなくのイメージではあるが、均等にミキサーなどで加工するのより不規則な方がなんとなく風味が良い気は確かにしなくもない?)
その他補足
スープなので一般的に前菜として食されるがメインディッシュとして供されることもある。また、エビやアンチョビなどの魚介類を添えてボリューミーな感じの、いわゆるお食事スープに変身させることも可能である。
近年ではアーモンドとオリーブオイルの健康的な脂肪分が多く含まれ、心臓の健康にも効果が期待できることから健康食品的な視点からの人気も高まっているようだ。
アホブランコは伝統的に夏の料理だが、現代的なレシピでは、温かいまま提供したり、焼き栗やカボチャなど季節の食材を加えたりすることで、寒い季節向けにアレンジもされている。
また、植物性であり、アーモンドから豊富なタンパク質と栄養素を摂取できることから、ビーガンやベジタリアンのコミュニティにも受け入れられている。
ボウルや深皿で提供されるのが一般的だが、おしゃれレストランなどではまるでウォッカなどのようなショットグラスや小さな瓶で提供されることもある。
備考
ムーア料理とスペイン南部 パエリアからタパスまで強い影響
ムーア料理の影響はアホ・ブランコだけでなくパエリアなど、広くスペイン料理、ポルトガル料理に受け継がれている。
このムーア料理とは、8世紀初頭から15世紀後半までイベリア半島(現在のスペインとポルトガル)の一部を征服し、定住した北アフリカ出身のイスラム教徒であるムーア人の影響を受けた料理だ。
この、いわゆる、アル=アンダルス(ムーア人のイベリア半島)地方では、アラビア料理の伝統と地元イベリア人の習慣が融合した。アーモンドやピスタチオなどのナッツ類やドライフルーツを使った香ばしい料理やスイーツなど豊かで多様な美食が生まれた地域だといえる。
ちなみにムーア人とはイベリア半島在住のイスラム教徒であるため、民族を具体的に言うとアラブ人とベルベル人両方を指す。
つまりムーア料理には中東のアラブ人とアフリカのベルベル人、そしてイベリア半島のヨーロッパ人が作った、大きくは3つの民族の混合文化なのだ。
今でもムーア料理の片鱗は甘いものと酸っぱいものを一緒に使ったり、香りのよいハーブやスパイスを使って味付けをするなど、対照的な味を強調する食文化に見ることができる。
スパイスの面からは、ムーア人はサフラン、クミン、コリアンダー、シナモンなど様々なスパイスをイベリア料理に導入し、これらはスペイン料理やポルトガル料理の基礎の一つとなっている。
同様に果物と野菜などについても、例えばオレンジ、レモン、アプリコット、アーティチョーク、ナスなどはムーア人のおかげといえる。
コシードやフエゴといった、野菜や肉の煮込み料理。そしてムーアの影響を受け、マリネした肉を串にさしたピンチョ・モルーノといった肉料理がスペインにはあるが、これも世界的に有名なスペインの小皿料理文化であるタパスと強く関連している。
その他にもムーア人の支配下で米とサトウキビの栽培が大きく発展した。つまりお米と砂糖である。
具体的には既に述べたようにパエリアなどの米料理や、。今日のスペインポルトガルの数々のデザートが生まれることにつながったのである。
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