テラス席の籐椅子から人々を観察し、一杯のコーヒーで数時間を過ごす贅沢。パリの石畳の通りに面したカフェでクロワッサンを頬張りながら世界の動きについて熱く議論する知識人たち。。
フランスのカフェ文化は飲食の場というだけでなく、17世紀から続く歴史と哲学が息づくカルチャー漂う社会的空間といえます。
時には革命家が計画を練り、文豪が名作を書き、市民が日常を紡いできた場所であるフランスのカフェが歩んできた歴史に今回は会話形式で迫れればと思います。
フランスのカフェーの誕生
オスマン帝国からフランスへの伝来
先生:今回は異なるタイプの飲料文化であるフランスのカフェ文化について探ってみましょう。これまで説明してきたイギリスの紅茶文化と同様に豊かなテーマです。
フランス、特にパリのカフェ文化は世界的に知られています。その起源は17世紀、オスマン帝国との交易によってコーヒーがヨーロッパに伝わったことにあります。フランスは中東と貿易関係にあった港町マルセイユに最初のコーヒーハウスを開き、その後パリにもオープンしました。
学生:では、これらのコーヒーハウスはどのようにして現在のカフェに進化していったのでしょうか?
先生:いい質問ですね。コーヒーハウスは当初、上流階級や知識人がよく利用する場所でした。
しかしやがて一般の人々にも親しまれるようになりました。19世紀には現在のようなカフェに変化していきました。カフェは社交と食の中心地となり、おしゃべりをしたり本を読んだり世の中を観察したりする場所となったんです。
実はフランスで初めて公式に開かれたカフェは1672年のパリ「プロコップ・カフェ」と言われています。当時はまだコーヒーが高価で珍しい飲み物だったため、最初は貴族や裕福な商人だけが利用できる特別な場所だったんですよ。
コーヒーハウスからカフェへの変貌
先生:18世紀後半になるとパリには数百のカフェが存在するようになりました。
コーヒーの価格が下がり、一般市民も利用できるようになったからです。カフェの性格も少しずつ変化していきました。
学生:どのように変化したんですか?
先生:最初は単にコーヒーを提供する場所だったものが食事やアルコール、文化的活動を提供する多目的な空間へと進化していったんです。特に19世紀のパリ改造計画によって広い歩道が整備されるとカフェはテラス席を設けるようになり「見る・見られる」文化が花開きました。
フランス独自のカフェ様式も確立されていきました。長時間滞在できる居心地の良い空間、テラス席からの人間観察、サーヴス(サービス料)込みの価格設定など、現代のフランスカフェの特徴の多くはこの時期に形作られたものなんですよ。
面白いことに19世紀のパリでは様々な職業や趣味に特化したカフェが登場しました。例えばジャーナリストが集まるカフェ、チェスプレイヤーが集まるカフェ、音楽家が集まるカフェなど。カフェは単に飲食の場ではなく、社会的ネットワークの中心だったんです。
文学と革命の舞台:カフェが育んだフランスの思想
文豪たちの創作の場

先生:実際、フランスのカフェはフランスの文学や哲学を形成する上で重要な役割を果たしました。ヴォルテール、ルソー、デュマ、ユゴー、そして後にサルトルやカミュといった有名な作家や哲学者がカフェに通いそこで執筆することで知られています。多くの重要な文学作品や哲学作品がこのカフェで生まれました。
学生:それはすごいですね!カフェで小説や哲学が誕生していたんなんて。
先生:それは文化の一部だったんだよ。カフェは街のリビングルームのようなもので、コーヒー1杯で何時間でも居られるような場所でした。だから作家にとって理想的な場所だったんです。
例えばサン=ジェルマン・デ・プレ地区の「カフェ・ド・フロール」と「レ・ドゥ・マゴ」は実存主義哲学の中心地でした。
ジャン=ポール・サルトルとシモーヌ・ド・ボーヴォワールはほぼ毎日そこに座り、執筆し、議論していました。サルトルの『存在と無』や『嘔吐』など、20世紀の重要な哲学作品の多くはカフェのテーブルで書かれたんですよ。
おもしろいことに作家たちはそれぞれ「自分の」カフェを持っていて、ある種のオフィスのように使っていました。時には手紙の宛先として自分のお気に入りのカフェの住所を使うこともあったんです。
こちらはカフェドゥマゴの様子。
革命の温床としてのカフェ
先生:それとは別に、カフェはフランス革命にも一役買っています。革命家たちが集い、議論し、計画を練る場として機能したのです。つまりフランスのカフェは歴史に彩られているというわけです。
学生:具体的にはどんな役割を果たしたんですか?
先生:1789年のフランス革命前夜、パレ・ロワイヤル地区のカフェは政治的議論の中心地でした。特に「カフェ・ド・フォア」ではカミーユ・デムーランがテーブルの上に立ち、熱烈な演説を行い、市民をバスティーユ襲撃へと駆り立てたと言われています。
また19世紀のパリ・コミューン(1871年)の際にもカフェは革命家たちの集会場として使われました。市民が自治政府を樹立したこの短い革命的期間中、カフェは情報交換や政治的組織化の重要な場だったんです。
面白いのは当局もカフェの政治的影響力を認識していたことです。歴史を通じてフランス政府は政治的に不安定な時期には「スパイ」をカフェに送り込み、革命的な動きを監視していました。それほどカフェは社会的・政治的に重要な場所だったんですね。
フランスの有名なカフェは今でも訪れることができますか?
はいパリには歴史的に重要なカフェが今も数多く存在します。例えば1686年創業の「ル・プロコープ」はヴォルテールやルソー、ディドロなどが通った啓蒙思想の発信地で、現在もレストランとして営業しています。
サルトルとボーヴォワールがほぼ毎日通った「カフェ・ド・フロール」や「レ・ドゥ・マゴ」も健在で、多くの観光客が訪れる名所となっています。
またピカソやヘミングウェイがよく利用した「ラ・クーポール」、19世紀の芸術家に人気だった「カフェ・ド・ラ・ペ」など、歴史的価値のあるカフェが現在も営業を続けています。
ただし観光地化が進み、かつての知的な雰囲気よりも商業的な側面が強くなっている場所も少なくありません。
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フランスのカフェ文化の特徴:食事からライフスタイルまで
カフェで楽しむ飲み物と軽食
学生:それは魅力的ですね。食べ物や飲み物はどうでしょう?
先生:カフェの魅力はコーヒーだけではありません。ワインやビール、ホットチョコレートや紅茶など、さまざまな飲み物を提供することが多いです。
朝食にはクロワッサンやバゲット、タルティーヌ、昼食にはサラダやキッシュなどフランスらしいシンプルな料理も有名ですね。
フランスのカフェメニューには独特のコーヒーの注文方法があります。「カフェ」と頼めばエスプレッソが出てきますし、「カフェ・クレーム」はクリーム入りコーヒー、「カフェ・オ・レ」は大きめのボウルに出されるミルクたっぷりのコーヒーです。
またフランスのカフェでは「プレッセ」という新鮮な果物ジュースや、暑い日には「グラニテ」と呼ばれるかき氷のようなデザートドリンクを提供するところも多いですよ。
おもしろいのはフランスのカフェのコーヒーはイタリアやスペインのものと比べると少し薄めで量が多いこと。これは長時間カフェで過ごすフランス人のライフスタイルに合わせたものとも言えるでしょう。
「フラナー」の芸術:カフェで過ごす時間
先生:フランスのカフェ文化はテイクアウトコーヒーのような現代のトレンドに直面しながらも今日も健在です。
パリのテラスには通りに面した籐の椅子があり、人々はのんびりとコーヒーを飲みながら世の中の流れを眺めているというイメージはまさにフランス的なものですね。
学生:食事や飲み物だけでなく、体験のような感じですね。
先生:その通りです。それがフランスのカフェ文化の真髄です。コーヒーそのものよりも人生を楽しみ、会話し、観察する時間を大切にすることをフランス人は「フラナー」と呼んでいます。
これは特に目的もなく街をぶらぶら歩いたり、カフェでゆっくり過ごしたりすることで人間観察を楽しむという意味です。フランスのカフェ文化は何世紀にもわたって地元の人々や観光客を魅了し続けているのです。
フランスのカフェでは1杯のコーヒーを頼むと数時間座っていても誰も急かしません。これは日本やアメリカのカフェとの大きな違いと言えるでしょう。フランス人にとってカフェは「第三の場所」—家でも職場でもない社会的な交流の場なんです。
テラス席に座り通りの人々を観察する文化は19世紀のパリ改造計画でブールバール(大通り)が整備されたことに由来します。
この時カフェが大きなガラス窓とテラス席を設けるようになり「見る・見られる」文化が発展しました。当時のパリジャンは自分の姿を見せるために美しく着飾ってカフェに行くことが社交の重要な一部だったんですよ。
現代におけるフランスのカフェ文化:伝統と変化
観光化と現代的変容
先生:現代のフランスのカフェ文化も時代とともに変化しています。
歴史的に有名なカフェの多くは観光名所となり、地元のフランス人よりも観光客で賑わうことも少なくありません。例えば先述の「カフェ・ド・フロール」や「レ・ドゥ・マゴ」はサルトルやボーヴォワールの時代よりも価格が何倍にも跳ね上がていて、普通のカフェよりも高級化しています。
学生:本来の雰囲気は失われているんですか?
先生:完全に失われたわけではありませんが、確かに変化はしていますね。一方でパリの住宅地域や地方都市には地元の人々が日常的に利用する伝統的なカフェが今も健在です。これらは「ビストロ」や「ブラッスリー」と呼ばれることもあり、地域コミュニティの中心として機能しています。
また近年ではバリスタ文化やスペシャルティコーヒーの影響も受け、コーヒーの質にこだわる新しいタイプのカフェも増えています。こうした店では伝統的なフランス式よりもエスプレッソベースの濃いコーヒーやラテアートを施したカプチーノなどを提供することも増えてきました。
それでもテラス席でゆったりと時間を過ごし、人間観察を楽しむというフランスのカフェ文化の本質は今も変わっていません。パリの街角のカフェに座ればスマートフォンを見る人々の間でも友人と熱く議論したり一人で本を読んだりする伝統的なカフェの使い方をする人々を見かけることができますよ。
デジタル時代のカフェの役割
先生:デジタル化が進む現代社会においてカフェの役割も少しずつ変化しています。Wi-Fiを完備し、電源を提供するカフェも増えていて、ノートパソコンを開いて仕事をする人の姿も見られるようになりました。
学生:それって伝統的なフランスのカフェ文化とは違うような気がしますが…
先生:確かに、長時間座っていても注文を強制されないフランスのカフェ文化はデジタルノマドやリモートワーカーにとって理想的な環境と言えます。しかし伝統的なカフェの中にはあえてWi-Fiを提供せず、対面での会話を重視する場所も少なくありません。
また、フランスでは近年、伝統的なカフェが減少傾向にあります。特に田舎の小さな村ではコミュニティの中心だったカフェが閉店するケースが増えているのです。
これに対してフランス政府は「1000カフェプロジェクト」という取り組みを始め、過疎地域でのカフェ再生を支援しています。そこまでしてカフェを守ろうとするのはカフェがフランス文化のアイデンティティと強く結びついているからといえるでしょう。
まとめ
フランスのカフェ文化は単なる飲食の場を超えた社会的・文化的な現象です。
17世紀にコーヒーがフランスにもたらされて以来、カフェは文学、哲学、政治、芸術の発展に深く関わってきました。サルトルのような哲学者がカフェで名著を執筆し、革命家たちがカフェで社会変革を構想したという歴史はカフェがフランス文化の形成に果たした重要な役割を物語っています。
コーヒー一杯で長時間滞在できる空間、テラス席からの人間観察、活発な議論が飛び交う知的な雰囲気—これらはフランスのカフェ文化の特徴です。
「フラナー」という概念に象徴されるようにフランス人にとってカフェは単に飲食をする場所ではなく、ゆっくりと時間をかけて人生の味わいを感じる場所なのです。
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