リゾットとは何か
イタリアの米料理リゾット
リゾットは北イタリア発祥のクリーミーな食感の米料理である。
一般的には丸いアルボリオ米や、アルボリオより少し細いカルナローリ米という種類の米が使われる。
こうした米を炒めたのち、クリーム状になるまでスープでかき混ぜながら煮込んだ料理だ。
中国や日本など東アジアで食べられるお粥、トルコや中央アジアで食べられているピラフと比べると、よりリゾットが何かがわかりやすいかもしれない。
味付けや具材はそれぞれの料理で全く違うが、米調理だけに着目して比べてみよう。
お粥とリゾットの違い
まず似ている点、お粥はリゾットと同じく短い粒の米を使う。また、お粥はクリーミーな米の仕上がりで見た目はリゾットに少し似ている。
しかしお粥は米を炒めない。ブイヨンのようなスープも使わない。
もっとオートミールなどに似た、米自体の味を引き出した薄味の料理である。
かき混ぜる過程も少ないか、ゼロである。
ピラフとリゾットの違い
似ている点から。リゾットと同じく米を炒める過程があり、お粥よりもリゾットと似た材料も使われる。バターやタマネギなどだ。
しかし米は長い長粒種などのものを使う。
そしてリゾットと違ってかき混ぜる過程も圧倒的に少ない。
お粥やリゾットと違って米をクリーミーになるようには仕上げない。
つまり米のでんぷん質を外に出さないことで逆にパラパラとした食感に仕上げるのだ。
このようにイタリア独自のクリーミーな米料理がリゾットである。
また、イタリア料理内の位置付けとしては、メインディッシュの前にプリモ(最初の料理)として出されることが多い。
お粥やピラフはほとんどの場合メインディッシュとして扱われることが多いのでその点も異なる。
リゾットの起源
ある意味でリゾットの歴史はイタリアのコメの歴史ともいえる。14世紀、アラブ人によってヨーロッパ、それもイタリア南部に米が伝わったことに始まるからだ。
そして南イタリアでまず栽培されたコメ。
徐々に北イタリアでも特にロンバルディア州やピエモンテ州で栽培されることになる。
そうした地域は米の大生産地であるインドや東南アジアや中国南部などと似た、湿度の高さと豊富な水量があり、米の栽培に適した場所であったためだ。
そう考えると14世紀からリゾットがあったようにも思えてしまうが、リゾットが普及したのはなんと19世紀に入ってからです。最初に確認できるレシピでさえ1809年のものなのです。
簡単な手順説明
リゾットの手順は簡単だ。炒める、炊く、そしてマンテカトゥーラだ。
1. 米(一般的にはアルボリオ、カルナローリ、ヴィアローネ・ナノなど、でんぷんを多く含む品種)を、バターかオイル、細かく刻んだ玉ねぎと一緒にフライパンで半透明になるまで軽くトーストする。
ここで注意したいのは、柔らかいもちもちした食感のコメが好まれる日本などではコメは水ですすぐ作業を何度か繰り返してから炊飯をするが、リゾットではそうした水でコメ同士を研ぐという作業は行わない。
何もしないで油分とタマネギで炒めるというこの手順によって、よりリゾットに適したアルデンテの食感になるのである。
基本的に炊いて食べている人は少し不安かもしれないが米は飛び跳ねたりしてこないで、だんだん膨らんでくるので大丈夫だ。
2. ブイヨンを加えて炊く:その後、熱いブイヨンのスープを少しずつ加え、かき混ぜながら炊く。約18~20分かかるこの工程で、米のでんぷん質が放出され、リゾットの特徴であるクリーミーさが生まれる。
3. 最後はマンテカトゥーラだ。
リゾットに冷たいバターとすりおろしたチーズ(一般的にはパルミジャーノ・レッジャーノかグラナ・パダーノ)をマンテカトゥーラする。
マンテカトゥーラは要するに、素早く全体をかき混ぜるというような意味だ。アルデンテと同じでなんだかとてもイタリアンな単語である。
リゾットのこつ
ブイヨン
基本的にリゾットの最終的な風味を決めるのはブイヨンの質だ。こだわる場合は自家製か高品質のブイヨンを使おう。
かき混ぜる
お米がくっつかないように、またでんぷんが出やすくなるように頻繁にかき混ぜる。ミキサーのように絶え間なくかき混ぜるのではなく適度に多めといった感じがベストだ。
アルデンテ
目指す食感はアルデンテ。パスタでもよく言われるが、柔らかいが少し噛み応えのある状態を目指そう。ただしもちろんベストは自分の好きな食感である。
すぐに食べよう
すぐに食べよう。リゾットはクリーミーさを十分に楽しむために、かき混ぜたらすぐに食べるのがベストだ。火傷には注意を。
リゾットの種類 黄色だけじゃない、赤いリゾット、黒いリゾット
イタリアの各地域で様々なバリエーションがあります。
リゾット・アラ・ミラネーゼ
リゾットといえばイメージが浮かぶ、黄色のお馴染みのリゾットだ。これはロンバルディアのリゾットで最も有名であり、サフランを使うのが特徴だ。つまりパエリアの黄色とリゾット・アラ・ミラネーゼの黄色は同じである。
伝統的にはオッソブーコ(子牛のすね肉の料理)と一緒に供されることが多い。
主な材料は、アルボリオ米、カルナローリ米、ヴィアローネ・ナノ米、牛肉のストック、サフラン、玉ねぎ、バター、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズなどである。
また、仔牛のすね肉を野菜、白ワイン、スープで煮込んだオッソ・ブーコと一緒に出されることが多い。
この料理にまつわる話として、ミラノ大聖堂のガラスの着色をしていた職人が結婚式の祝宴で料理にサフランを加えることを思いついたことで、リゾット・アッラ・ミラネーゼが誕生したという伝説がある。
リゾット・アル・バローロ
赤ワインとトリュフの産地として知られるピエモンテ州。この地で発祥のリゾット・アル・バローロは、バローロ村の特産品であるバローロワインで作られる赤いリゾットだ。
このリゾットは調理過程でしっかりとしたバローロワインを取り入れる。
他のリゾットと同様に牛肉のブイヨン、パルミジャーノ・レッジャーノ、そしてしばしばパンチェッタやソーセージを加えて作られる。特に地元の豊かな森を利用したトリュフも人気の具材としてよく使われる。
リゾット・アッラ・イソラーナ
ヴェロネーゼの豚肉と仔牛を使ったリゾットだ。
ロンバルディア地方のヴェローナの街に深く根付いているリゾットだ。
イソラーナスタイルとして一般的に米(風味を吸収しやすいヴィアローネ・ナノが好まれる)を、牛肉、豚肉、時には鶏肉やウサギ肉などの様々な肉とパルメザンチーズと混ぜ合わせ、濃厚なスープで煮込む。
他のリゾットに比べてボリューミーでかなり重みのある味を楽しむことができる。
リゾット・アル・ネロ・ディ・セッピア
ヴェネチア発祥のリゾット・アル・ネロ・ディ・セッピアは、イカの墨を使ったリゾットだ。
イカの墨を使うことで印象的な色合いだけでなく塩味の聞いたうま味のある風味が出来る。
イカ墨だけではなく、この料理はベネチアの魚介類が使われることも多い。
白ワイン、タマネギ、ニンニク、なども使われるこのリゾットは、リゾット・アッラミラネーゼの黄色にコントラストをなすような、インパクトのある逸品といえる。
ラディッキオのリゾット
上記のリゾット・アル・ネロ・ディ・セッピアと同じくリゾット・ディ・ラディッキオは、ヴェネト州のリゾットである。
この地方の農業革新、特にラディッキオの栽培によって生まれたリゾットだ。このリゾットには、少し苦味のあるワインレッドのラディッキオが使われ、美しい色合いと独特の風味を添えている。
他の材料は、玉ねぎ、白ワイン、パルメザンチーズなどで、ラディッキオはソテーして米に混ぜるとほのかな甘みが生まれてその苦手とちょうどいいバランスとなる。
ラディッキオの苦味とリゾットのクリーミーさが調和した料理で、バターやオリーブオイルを加えて仕上げることが多い。
リジ・エ・ビジ(Risi e Bisi)
三連発で申し訳ないが、こちらもヴェネト州のリゾットである。こちらはエンドウ豆を使うのが特徴だ。
リジ・エ・ビジはヴェネト州の伝統的な料理で、特にヴェネチアの街にちなんでいる。4月25日にヴェネツィアの守護聖人である聖マルコの祝日を祝うためによく作られるのだ。
主な材料は、新鮮なエンドウ豆、パンチェッタ、タマネギ、パルメザンチーズなどだ。こちらのストックは通常は野菜か鶏肉のスープを使う。あとはやはりパルメザンチーズ、そしてコクを加えるためにバターを使うこともある。
リジ・エ・ビジは、一般的なリゾットよりもややスープっぽい食感のものが多い印象である。
他にもまだまだあるリゾットの種類
リゾット・アル・ピスタッキオ
リゾット・アル・ピスタッキオは特にブロンテ地区を中心とした良質なピスタチオ産地であるシチリア島で特に食べられるものだ。
このリゾットのクリーミーな質感は、細かく砕いたピスタチオを加えることでさらに引き立てられ、ナッツの風味と鮮やかな緑色をもたらす。
生クリームとパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズを加えることも多い。具材としては魚介類やパンチェッタを加えることもある。
リゾット・アッラ・ズッカ
リゾット・アッラ・ズッカは、特にヴェネト州やロンバルディア州など、秋になるとカボチャが主食となる地域で愛される秋の料理だ。
カボチャの甘みが米の香ばしさと調和し、しばしばセージやナツメグ、時にはパンチェッタやスペックを添えて深みを増す。
リゾット・アイ・フルッティ・ディ・マーレ
Risotto ai Frutti di Mare(魚介のリゾット)。海に突き出ているイタリア半島の広大な海岸線を活かしたリゾットだ。
リグーリア州からシチリア州まで、新鮮な魚介類が豊富な沿岸地域で特に人気がある。エビ、アサリ、ムール貝、イカなどのシーフードが米と一緒に煮込まれる。
リゾット・アイ・ファンギ
キノコのリゾットだ。どんな種類のキノコでも作ることができるが、ポルチーニ茸は肉厚な食感で特に使われる。このリゾットはイタリア全土で人気があるが、ピエモンテ、ロンバルディア、トスカーナなど、キノコが豊富な地域では特にローカル食となっているといえる。たっぷりのパルミジャーノ・レッジャーノが使われることが多い。
リゾット・アル・タルトゥーフォ
タルトゥーフォはトリュフである。
フランスが有名かもしれないがイタリアのトリュフも世界的に最高のトリュフとされている。こちらは特にピエモンテ州やウンブリア州など、上質なトリュフの産地として知られる地域の料理だ。
ここまで述べてきたリゾットの大半の具材は米と一緒に調理されてきたがこれは異なる。トリュフはその香りと風味を保つために、提供する直前に料理の上に削りかける。トリュフの香りがクリーミーな米に染み渡り、濃厚なブイヨンとたっぷりのパルミジャーノ・レッジャーノの米とマッチする逸品である。
まとめとオリジナルリゾットの作り方
リゾットはイタリア以外でも今や多くの国で食べられる料理だ。
上記のイタリアのそれぞれの地域性や自然を活かした個性あるリゾットのようなイタリア人が好きなものから、場所や店によってはフルーツやチョコレートを使ったイタリア人が怒りそうな甘いリゾットなどまで、さまざまな新しいバリエーションが世界中に生まれ続けている。
一般的に、米、ストック、そしてタマネギ、ワイン、チーズ、などは多くのリゾットで使われる基本の食材だ。
それらを自分の近くのローカルの具材に変えたりするだけでも美味しい自分の地域オリジナルのリゾットが出来るかもしれない。そして、もちろん自分の地域の美味しい特別のローカル野菜や肉を具材として付けるのもありだと思う。
きっとイタリア人たちもチョコやケチャップをかけない限りは許してくれるのではないだろうか。