フレンチを代表する料理 ブフ・ブルギニョン
ブフ・ブルギニョン、ブッフ・ブルギニョン、どれも発音の違いだ。英語で言えば、ビーフ・ブルゴーニュ。つまりブルゴーニュ風の牛料理である。
この名前の通りルーツはブルゴーニュワインで有名な、フランス、ブルゴーニュ地方にある。
もともとはこの地方の名産である赤ワインでじっくり長い時間をかけて煮込むことで、固い肉を柔らかくするために考案された中世の農民料理だったものだ。
ちなみにワインだけでなく、牛についても伝統的にはブルゴーニュ原産のシャロレー種の牛を使って作られてきた。
そして、のちにこのブルゴーニュの人々のローカルフードをオーギュスト・エスコフィエやジュリア・チャイルドのようなフランスとアメリカの超有名シェフたちが更に国際的に広めたのだ。そうして世界的に注目を集め、今やフランス料理の代名詞となった料理である。
ナポレオンも好き?
ブフ、ビーフなので伝統的にもちろん牛肉で作られるが、今では豚肉や鹿肉など他の肉を使うバリエーションも存在する。ワインはブルゴーニュ・ワインを使うことが多いが、他のフルボディの赤ワインも使うことができ、それぞれ微妙な違いを料理に与える。
ナポレオン・ボナパルトのような歴史上の人物も好んだと伝えられている。彼は軍事作戦中の栄養源としてこの料理を楽しんだ。
今では出来立てを味わうことが多いが冷蔵庫で保存しておくと味がなじんで美味しくなる面もある。
つまり戦争中のような非常時に作り置きしておくとちょうど便利な料理でもあったのだ。先述のブルゴーニュ地方の農民たちの牛肉を柔らかくする知恵がそのルーツにあることからもこれは理にかなった料理の利用といえるだろう。
ブフブルギニョンのこだわり、付け合わせ
肉に関して
調理前に牛肉をワインや香辛料に漬け込むことはシェフの間でも意見が分かれるところである。肉を柔らかくし旨味を染み込ませるという意見もあれば、牛肉がドロドロになってしまうので、この工程は省きたいという意見もある。
多くのレシピでは牛肉のブイヨンを使うが、伝統的な料理ではワインと水を併用し、じっくり煮込んだ牛肉と野菜が自然にブイヨンを豊かにするのを利用するものもある。ブーケ・ガルニ(タイム、ローリエ、パセリなどのハーブを束ねたもの)を使うのは、ブフ・ブルギニョンの伝統的な要素であり、料理の主な味を邪魔することなく香りの複雑さを加える。
肉は霜降りの多いチャックを使うのが一般的だが、ブリスケットやショートリブなど他の部位を使うこともあり、それぞれに特徴がある。
多くのレシピでは、ダッチオーブンなど底の厚い鍋でブフ・ブルギニョンを調理するが、シェフの中には鋳鉄製のスキレットで肉に焼き色をつけることを好む人もいる。
一部の高級レストランではブフ・ブルギニョンを解体し、各要素を別々に盛り付けたり、牛肉を低温調理したり、野菜を泡状にして盛り付けるなど、この古典的な料理を現代風にアレンジしている。
つけあわせに関して
濃厚なソースをしみこませるために、ポテトやパンを添えるのが一般的だが、現代ではポレンタやライスを添えるものもある。
ブフ・ブルギニョンの牛肉に添えられる野菜は、単なる副材料ではなく、ニンジン、タマネギ、マッシュルームなど、それぞれの野菜が独自のエッセンスを発揮し、料理の複雑な風味を構築する上で重要な役割を果たす。
今では新鮮な野菜で作られることが多いが、伝統的なレシピでは玉ねぎのピクルスやマッシュルームの保存食を使うこともある。
ワインとの相性ではブルゴーニュの赤ワインが伝統的な選択だが、ソムリエの中には、ジンファンデルやマルベックのような他の品種を試してみることを勧める人もいる。
また、応用としてパイやキャセロールなど、他の料理のベースとしてブフ・ブルギニョンが使われることもある。
ブフブルギニョンのレシピ
一般的な材料
牛肉の塊(一般的にはチャックやブリスケットのような固いもの)、ブルゴーニュ・ワイン。
またタイム、ローリエ、パセリからなるブーケガルニが必要である。
ベーコンやラードは風味と脂身のために使われる。
そしてニンジン、タマネギ、ニンニク、マッシュルームなど。
作られ方
牛肉をワイン、ハーブ、野菜に理想的には一晩漬け込む。
ベーコンまたはラードを鍋で炒め、その脂で牛肉を焼く。野菜をソテーし鍋にワインの漬け汁を落とす。すべての材料をダッチオーブンなどの重い鍋に入れ、オーブンかコンロで行肉が柔らかくなるまでじっくり煮込む。この過程で濃厚で複雑なソースの味に仕上がる。
仕上げに野菜やマッシュルームのソテーを添える。
ブーケガルニって?
(知っている方も多いかもしれないが不親切かもしれないのでご存じでない方の参考用に一応。)
ブーケガルニとはスープ、シチュー、ストック、ソース、こうしたものに風味を加えるために使われるハーブの束である。
通常は紐で結んだり小さな小袋に入れたりする。古典的なブーケガルニにはパセリ、タイム、ローリエが含まれる。ただ、その構成は地域やレシピによって異なり、ローズマリー、コショウの実、セロリの葉、ネギ、その他のハーブやスパイスを加えることもある。
そしてブーケガルニは調理中に料理に風味を与えた後、提供する前に取り除かれる。ということで、ブーケガルニは最終的にハーブのかけらを残すことなく、芳香な風味をシームレスに統合することを可能にするある種の道具のようなものである。
きれいな盛り付けと風味の集中を同時に容易にする知恵というわけである。
調理するにあたって、コツのようなものとしてはブルゴーニュ・ワインや上質のピノ・ノワールを使うとより本格的なものになる。
またこうした料理には定番とおもいえるが、肉を柔らかくし、味を調和させるために、なるべく時間をかけて調理するのがいい食感にするコツである。
より深い味わいを出すために、ワインに加えて仔牛のブイヨンを使うことを勧めるシェフもいる。
ちょっとした違い
伝統的なレシピはフランス全土でほぼ同じであるがこの料理も地域によって多少の違いがある。
例えばドイツに近いアルザス地方ではブルゴーニュワインの代わりにドイツワインで有名なリースリンクを使うこともある。イタリア近くの沿岸側、プロヴァンス地方ではローズマリーなどのハーブを加えることもある。
ジュリア・チャイルド フランス料理の伝道師
ブフ・ブルギニョンはジュリア・チャイルドがテレビ番組『フレンチ・シェフ』で最初に作った料理のひとつで、アメリカの視聴者に紹介され、アメリカの家庭でも定番となった。
濃厚なソースを染み込ませるために、ポテトを添えたり、麺にかけたりして食べることが多い。
ちなみにジュリア・チャイルド(1912-2004)はアメリカの有名シェフだ。デビュー作の料理本 “Mastering the Art of French Cooking”や、その後の “The French Chef “などのテレビ番組を通じて、アメリカ国民にフランス料理を広めた人である。もちろん番組だけでなく本の方にもブフ・ブルギニョンは紹介されている。
チャイルドはその独特のわかりやすい説明スタイルで、フランス料理を解明し、米国内外の家庭料理人に親しみやすいものにしたことで知られている。
彼女は第二次世界大戦後にパリの有名な料理学校ル・コルドン・ブルーに通い、その間になんと戦略サービス局(CIAの前身)で働いてもいたそうだ。
あとがき
ブフ・ブルギニョンは冬の料理と思われがちだがフランスでは一年中楽しまれている。夏の集まりでも出される料理であるので暖かい時期にも良い。
また、この料理はコンロで調理されることが多いが、調理工程を簡略化するためにスロークッカーや圧力鍋を利用する方法もある。何かと時間短縮が求められる今、オーディオブックの小説の高速再生や映画の高速再生は楽しみをそいでしまってデメリットもある。
しかしそれと比べると圧力鍋での高速調理はほとんどメリットしかないと思うので、ある方は基本お勧めである。
ただしじっくり作る過程も楽しいかもしれない。調理自体が楽しい人にはクラシックなじっくりことこと時間をかけてという方法ももちろんありだと思う。実際長い過程をかけることで美味しく感じる面も料理にはあると思う。
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