甘酸っぱいリンゴの香りとサクサクのパイ生地が絶妙に調和するアップルパイ。
「アメリカンなものといえばアップルパイ」と表現されるほど、アメリカ文化の象徴とされてきたこのデザートですが、その起源は意外にも遥か昔のヨーロッパにまでさかのぼります。
実は14世紀のイギリスで最初のレシピが記録されるアップルパイ、世界各地で異なる形に進化しながら、私たちの食文化に根付いてきました。
今回はこのような意外な歴史から世界各国のバリエーション、そして文化的意義までを会話形式でわかりやすく掘り下げれたらと思います。
アップルパイの歴史的起源と進化
ヨーロッパに眠るアップルパイの本当のルーツ
先生:アップルパイは定番の料理で、アメリカ文化のイメージが強いですが、実はヨーロッパのルーツがあることをご存知ですか?
学生:そうなんですか?アップルパイって、アメリカ的なものだと思っていました!
先生:確かに「as American as apple pie」(アップルパイのようにアメリカ的な)というフレーズはアメリカで広く浸透しているほどですが、実はアップルパイの起源はかなりグローバルなんです。
アップルパイのレシピが初めて記録されたのはイギリスで、驚くことに1390年頃にまでさかのぼります。英国王リチャード2世の宮廷料理人によって書かれた「The Forme of Cury」という料理書に記載されています。
学生:それはずいぶん昔ですね。そのころのアップルパイはどんな感じだったんですか?
先生:当時のレシピには、良質なリンゴ、スパイス、イチジク、レーズン、洋ナシ、そして「棺桶」と呼ばれるペストリーケースが含まれていました。「棺桶」というのは少し物騒な名前ですが、単に長方形の深いパイ皿のことで、当時のパイは現代のような円形ではなく、まるで小さな箱のような形だったんですよ。
面白いことに、中世の料理書には、パイ生地は実際に食べるためというより、具材を保存するための「容器」として使われていたという記述もあります。硬くて分厚い生地は、今のような美味しいサクサク食感というより、実用的な役割を果たしていたのかもしれませんね。
アメリカへの渡航とアメリカンアップルパイの誕生
先生:実はリンゴ自体も北アメリカ原産ではないんです。ヨーロッパからの入植者がアップルパイのレシピと一緒にリンゴの種も持ち込みました。18世紀にアメリカの開拓者たちが、自生するクラブアップル(野生種のリンゴ)と持ち込んだ品種を掛け合わせて実験したことが、私たちが知るアメリカンアップルパイの始まりと言えるでしょう。
学生:では、なぜアップルパイがアメリカと強く結びつくようになったのでしょうか?
先生:その疑問の答えは20世紀の戦時中にあります。第二次世界大戦中、兵士たちに「何のために戦っているのか」と尋ねると、「お母さんとアップルパイのため」という答えがよく返ってきたんです。これにより、アップルパイとアメリカのアイデンティティの結びつきが強固になりました。
戦後、”as American as mom and apple pie”(お母さんとアップルパイのようにアメリカ的な)という言葉が一般的になり、最終的には “as American as apple pie” と短縮されたわけです。つまり、アップルパイはアメリカの家庭の象徴、温かさや伝統、そして「帰るべき場所」の象徴として文化に根付いていったんですね。
マッセンジャー・ニューマンという著名な食文化研究者は、「アップルパイの歴史は、多様なルーツを持ちながら独自の文化アイコンに昇華させたアメリカそのものの歴史を映し出している」と評しています。
まさに文字通りアメリカは多様な移民の国ですから、その国民的デザートもまた国際的な起源を持つというのは、なんとも象徴的ではないでしょうか。
世界各国のアップルパイバリエーション
ヨーロッパ各国の独自のアップルパイ文化

先生:アップルパイの世界は実に広大で、各国で独自の進化を遂げています。リンゴ、砂糖、スパイス、パイ生地という基本的な材料は共通していますが、何世紀もの間に地域によってさまざまな工夫が加えられてきました。
学生:具体的にどんなバリエーションがあるんですか?
先生:例えばオランダには「アッペルタート」という伝統的なアップルパイがあります。
これは格子状の生地で覆われ、シナモンやレーズンで味付けし、時にはラム酒を加えることもある豊かな味わいのパイです。オランダ人は17世紀にニューヨーク(当時のニューアムステルダム)に入植しましたから、彼らのアップルパイの伝統がアメリカンアップルパイにも影響を与えたと考えられていますよ。
フランスには「タルト・タタン」というリンゴをキャラメリゼした「逆さまのタルト」があります。これはタタン姉妹というホテル経営者が誤って逆さまに焼いてしまったものが美味しかったという、偶然の産物とされています。失敗から生まれた料理の代表例とも言えるでしょうね。
学生:おもしろい!他にも特色あるアップルパイはありますか?
先生:スウェーデンには「エッペルカカ」というデザートがあり、これはイギリスのアップルクランブルに似ています。リンゴの上にオート麦やバター、砂糖、シナモンの混合物をかけて焼き上げるもので、パイ生地は使わないんです。スウェーデンでは伝統的にバニラカスタードソースをかけて食べます。
ドイツには「アプフェルシュトゥルーデル」があり、これは薄く伸ばした生地でリンゴを包み、渦巻き状に巻いたペストリーですね。オーストリアのウィーンが発祥と言われていますが、旧オーストリア=ハンガリー帝国全域で親しまれてきました。生地を紙のように薄く伸ばす技術が必要で、伝統的なパティシエはその生地を通して新聞が読めるほど薄くするとも言われています!
アメリカ国内の地域ごとのバリエーション
先生:アメリカ国内でも、地域によってアップルパイのスタイルは様々です。例えばペンシルベニア州の「ペンシルベニア・ダッチ」と呼ばれるコミュニティでは独特のアップルパイが有名です。
このダッチは実はオランダ人ではなく、ドイツ語のドイチュ(Deutsch)に由来しており、ドイツ系移民のコミュニティを指します。
彼らのアップルパイは小麦粉、バター、砂糖を混ぜてクランブル状にしたものを表面にのせた「クランブルトップ」スタイルが特徴で、独特の食感を楽しめます。
学生:アメリカの他の地域ではどうなんですか?
先生:ニューイングランド地方、特にバーモント州では、アップルパイにシャープチェダーチーズを添えて食べる伝統があります。甘いパイに塩気のあるチーズを合わせるという組み合わせは、最初は奇妙に思えるかもしれませんが、実は素晴らしいバランスの味わいなんですよ。
それから「アップルパンドウディ」というのもあります。これは深い皿に入れたリンゴの上に生地を置き、焼いている途中で生地をリンゴの中に押し込むことで果汁を吸収させるデザートです。名前の「ダウディ(Dowdy)」は、この混ぜ合わせる調理法や仕上がりのでこぼこした見た目から来ています。見た目は素朴ですが、リンゴと生地が一体となった豊かな風味が特徴的な伝統的な北米のデザートです。
また、南部では「フライドアップルパイ」という、小さなアップルターンオーバーを油で揚げたものも人気です。カリッとした外側と、とろりとした内側のリンゴの対比が絶妙なんですよ。
アップルパイにまつわる文化と象徴性
日常生活と伝統の中のアップルパイ
先生:アップルパイが単なるデザート以上の存在であることは、様々な慣用句からも見て取れます。例えば「アップルパイ・オーダー」という言葉は1960年代に使われ始め、何もかもが完璧に整った状態を表現しました。これはおそらく、きれいに並べられたリンゴのスライスの整然とした様子からきているんでしょうね。
学生:それは面白いですね!他にもアップルパイにまつわるトリビアはありますか?
先生:意外なことに、1700年代のニューイングランドでは、アップルパイは実際に朝食として食べられていたんですよ。当時の入植者たちは、朝の労働前にカロリーを摂るために甘いパイを食べていたようです。朝からデザートというと今では贅沢に感じますが、当時は実用的な食事だったわけです。
また、アメリカ各地ではアップルパイコンテストが開催され、最高のレシピを競い合います。このようなコンテストは地元のコミュニティ意識を高め、伝統的なレシピを次世代に伝える役割も果たしています。中には100年以上続いているコンテストもあるんですよ。
アップルパイと季節の関係性
先生:アップルパイと言えば秋の味覚という印象が強いですよね。リンゴの収穫期は一般的に晩夏から秋にかけてで、新鮮なリンゴが手に入る季節にアップルパイを焼く習慣があります。アメリカの感謝祭やハロウィーンなどの秋のお祝いの席に、温かいアップルパイが登場することも多いですね。
学生:家庭で焼く際に気をつけることはありますか?
先生:アップルパイ作りで一番大切なのはリンゴの品種選びかもしれません。甘さと酸味のバランス、そして火を通しても形を保つ品種が理想的です。グラニースミス、ブラムレー、ハニークリスプなどは焼いても崩れにくいのでおすすめですよ。
実は日本の「ふじ」りんごも、甘さと歯ごたえのバランスが良く、アップルパイに最適な品種の一つとして海外でも評価されています。地元の旬のリンゴで作るパイには、その土地ならではの風味が宿るものです。
家庭で作るアップルパイのコツとバリエーション
基本のアップルパイレシピと失敗しないコツ
先生:アップルパイは家庭で作れる定番のデザートですが、いくつかのコツを押さえると格段に美味しくなります。まず、パイ生地を作る際は材料を冷やしておくこと。バターは冷蔵庫から出したてのものを使い、水も氷水を使うとサクサクの生地になりやすいですよ。
学生:リンゴの扱い方にもコツがありますか?
先生:リンゴの処理も重要ですね。切ったリンゴは空気に触れると褐色化するので、レモン汁をかけておくといいでしょう。また、パイの底が「べちゃっ」とならないように、リンゴから出る水分をコントロールする必要があります。あらかじめリンゴに砂糖をまぶして30分ほど置き、出てきた水分を捨てる方法や、リンゴを軽く炒めてから使う方法もあります。
「ベント」と呼ばれる上部の生地に切り込みを入れることも忘れないでください。これはリンゴから出る蒸気の逃げ道になり、パイがパンパンに膨らんで破裂するのを防ぎます。伝統的な格子状のデザインは、実は見た目だけでなく、この蒸気逃しの役割も果たしているんですよ。
家庭で試せるアレンジレシピ
先生:基本のアップルパイに慣れてきたら、様々なアレンジを試してみるのも楽しいものです。例えば、リンゴにブルーベリーやクランベリーを混ぜると、色合いも鮮やかになり、爽やかな酸味が加わりますよ。
学生:スパイスなどで味変することもできますか?
先生:もちろんです!伝統的なシナモンに加えて、ナツメグ、オールスパイス、カルダモンなど、スパイスの組み合わせを変えるだけでも印象がガラリと変わります。クローブを少量加えると深みが出ますし、ジンジャーを入れるとさらにスパイシーな風味になります。
また、リンゴにキャラメルソースを絡めた「キャラメルアップルパイ」や、表面にストゥルーゼル(クランブル)をのせる「ダッチアップルパイ」も家庭で簡単に作れるバリエーションです。リンゴの代わりに洋ナシを使った「ペアパイ」も、季節の変わり目に楽しめるアレンジですね。
マイナスイオン効果(※個人の感想です)を狙うなら、アップルパイの温かさと冷たいバニラアイスクリームの対比を楽しむ「アラモード」スタイルもおすすめですよ。その対比的な味わいは、まさにデザートの王道と言えるのではないでしょうか。
Q&A:アップルパイについてよくある質問
Q:アップルパイに最適なリンゴの品種は何ですか?
A:アップルパイには酸味と甘みのバランスがよく、加熱しても形を保つ品種が適しています。
グラニースミス(青リンゴ)は酸味が強く形も保ちやすいため定番です。ブラムレーはイギリスの料理用リンゴとして有名で、アップルパイに最適です。日本では紅玉(こうぎょく)が酸味があって煮崩れしにくく、アップルパイに向いています。
ふじや王林などの甘い品種を使う場合は、レモン汁を加えて酸味を補うとバランスが良くなります。一つの品種だけではなく、複数の品種を混ぜるのも風味豊かなパイを作るコツです。
Q:アップルパイの保存方法と日持ちはどのくらいですか?
A:焼きたてのアップルパイは常温で2日程度、冷蔵庫で3〜4日は美味しく食べられます。
常温保存する場合は、清潔な布やラップでしっかり覆い、直射日光や湿気を避けてください。冷蔵保存する場合は、しっかり冷めてからラップやタッパーに入れましょう。長期保存したい場合は、焼いたパイを一切れずつラップで包み、冷凍することで1〜2ヶ月保存できます。食べる際は自然解凍するか、オーブンで温め直すと風味が戻ります。冷凍した生のパイ生地なら、解凍せずにそのまま焼くことも可能です。
Q:アップルパイとアップルタルトの違いは何ですか?
A:アップルパイとアップルタルトは似ているようで異なるデザートです。
アップルパイは通常、パイ皿に下側と上側の生地で具材を包み込む形で、生地は主にショートニングやバターを使った「パイ生地」を使用します。一方、アップルタルトは下側のみに生地があり、上は開いていて具材が見える形が基本です。タルトの生地は「タルト生地」と呼ばれ、砂糖を含むことが多く、よりサクサクとした食感があります。
また、タルトは一般的に側面が垂直で、パイよりも浅い傾向があります。どちらも美味しいリンゴのデザートですが、食感や見た目に違いがあるのです。
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