ベーグル、一見ドーナツのような見た目ながら、噛み応えのある食感と多彩な楽しみ方で米を中心に世界中に愛好家がいるベーグル。
この穴の開いた丸いパンには、一言で言えば東欧ユダヤ人の歴史と文化が詰まっているおかずパンです。(主食ですがおかずクレープ的な意味で)
茹でてから焼くという独特の製法から生まれる特別な食感、世界各地に広がったバリエーション、そして日本での人気まで、ベーグルの奥深い世界をご紹介します。
ベーグルはどこの国のもの?起源と歴史
東欧からの長い旅:ベーグルの発祥
ベーグルは世界で最も認知度の高いパン製品の1つであり、その歴史は17世紀のポーランドのユダヤ人社会にまで遡ります。
正確な起源は多少謎に包まれていますが、ポーランド系ユダヤ人の主食として親しまれてきました。興味深いことに、出産を控えた女性に贈られることも多かったという歴史があるのです。
この円形のパンには馬蹄形の形状と似た部分があり、「幸運」を象徴するとも考えられていました。また、中央の穴は「生命の輪」を表すと解釈する人もおり、出産祝いとしての意味合いもあったのかもしれません。
アメリカでの定着と進化
20世紀初頭、東欧からのユダヤ系移民の増加に伴い、ベーグルはアメリカ、特にニューヨークで人気を博しました。
当初はユダヤ人コミュニティの中で親しまれていましたが、時間の経過とともにアメリカ社会全体に広まり、朝食や昼食の定番として親しまれるようになりました。
ニューヨークの Lower East Side に最初のベーグルベーカリーが登場したのは1900年代初頭でした。当時のベーグルメーカーたちは「ベーグル・ベイカーズ・インターナショナル」という労働組合を結成し、熟練の技術を守っていました。
一晩に数千個のベーグルを手作りで生産する職人たちによって、ベーグル作りの伝統は守られてきたのです。
ベーグルの種類
地域による違い:ニューヨークVSモントリオール
ベーグルには地域によって異なるスタイルがあります。最も代表的な対比はニューヨークスタイルとモントリオールスタイルです。
ニューヨークスタイルのベーグルは比較的大きく、噛み応えがありながらも少し柔らかめです。塩味が効いており、様々なトッピングやフィリングと合わせやすいのが特徴です。一方、モントリオールスタイルのベーグルは小ぶりで密度が低く、蜂蜜が加えられることで甘みがあります。さらに特徴的なのは、薪釜で焼かれることが多く、そのため若干のスモーキーさが感じられることもあるのです。
この地域差は移民の出身地や現地の水質、さらには地域の好みによって生まれたものと言われています。それぞれに魅力があり、食べ比べてみると面白いかもしれませんね。
多彩なトッピングとフレーバー
伝統的なベーグルはプレーンでしたが、長い年月をかけて様々なバリエーションが生み出されてきました。
今日では、セサミ、ポピーシード、オニオン、ガーリック、エブリシング(様々なトッピングをミックスしたもの)、シナモンレーズンなど、様々な種類が楽しめます。
最近では季節限定のフレーバーや、ブルーベリー、チョコレートチップなどの甘いバリエーションも人気です。特に日本では抹茶やあんこを使った和風アレンジも見られ、ベーグルの可能性はさらに広がっているように思います。
ベーグルサンドイッチ
ベーグルの楽しみ方の一つに、サンドイッチがあります。特に有名なのはベーグルとクリームチーズの組み合わせで、この伝統は20世紀初頭にニューヨークで始まりました。
ロックス(スモークサーモン)と合わせた「ベーグル&ロックス」は特に人気があり、ケッパー、レッドオニオン、トマトなどを加えることでさらに風味豊かになります。この組み合わせは、ユダヤ系アメリカ人のブランチの定番として親しまれています。
現代では、卵とベーコン、ターキーとアボカド、ハムとチーズなど、無限のバリエーションが存在します。
ベーグルの丈夫な生地は具材の水分を吸収しすぎることなく、様々なフィリングをしっかりと支えることができるため、サンドイッチの土台として理想的なのです。
ベーグルとドーナツ:見た目は似て中身は違う
調理法の違いがもたらす食感の差
ベーグルとドーナツは見た目が似ていますが、調理法が全く異なります。前述の通りベーグルは茹でてから焼くのに対し、ドーナツは油で揚げられます。
この調理法の違いが食感に大きな差をもたらします。揚げることでドーナツは軽くてふわふわした食感になり、油を吸収することで柔らかい内部とカリッとした外側が形成されます。
一方、ベーグルは茹でて焼くことで、外はしっかりとした食感、中はもちっとした密度のある食感が特徴的です。
材料と栄養価の比較
ベーグルとドーナツは使用する材料も大きく異なります。
ベーグルは高グルテン粉(強力粉)を使用するのに対し、ドーナツは薄力粉や中力粉を使用します。また、ドーナツは砂糖と油脂の含有量が高いのに対し、伝統的なベーグルは砂糖をほとんど含まず、油脂も最小限です。
栄養面での違いを比較すると、以下のような差があります:
| 特徴 | ベーグル | ドーナツ |
|---|---|---|
| 材料 | 強力粉 | 薄力粉 |
| 調理法 | 茹でてから焼く | 油で揚げる |
| 食感 | 密度が高く噛み応えあり | 軽くてふわふわ |
| 風味 | 主に塩味または中性 | 甘味 |
| カロリー | 中〜高(約250〜350kcal) | 高(約300〜400kcal) |
| 脂肪分 | 低〜中 | 高 |
ベーグルは強力粉や全粒粉で作られることが多く、食物繊維や栄養素が比較的豊富なため、ドーナツよりも一般に健康的な選択肢と考えられています。もちろん、トッピングやフィリングによっては栄養価が変わってくるので注意が必要です。
現代におけるベーグルの普及と人気
世界的なチェーン店の展開
今日、ベーグルは世界中のあらゆる文化圏の人々に親しまれています。アインシュタイン・ブラザーズ・ベーグル、ブリューガーズ、そしてダンキンといった大手チェーンがベーグルをさらに普及させる役割を果たしました。
特にアインシュタイン・ブラザーズ・ベーグルは、1995年に創業以来、米国内に700店舗以上を展開し、クリームチーズをたっぷり塗ったベーグルサンドイッチで有名になりました。
彼らのメニューには伝統的なベーグルだけでなく、現代的なアレンジを加えたバリエーションも豊富に揃っています。
ちなみにダンキン(旧ダンキンドーナツ)は以前日本にも店舗がありましたが、撤退してしまいました。日本人の口に合わなかったのか、ミスタードーナツなどの日本の既存チェーンと比べるとかなり甘さが強かったことが受け入れられなかった一因かもしれません。
日本におけるベーグル文化
日本では「ベーグル&ベーグル(B&B)」などのチェーン店も見かけますが、個人経営のベーグル専門店の人気も高まっていると個人的には思います。
実際、駅から離れた立地にもかかわらず評判の高い店舗などが自分の近くにはあり、在住の方か外国人観光客からかはわかりませんが英語の高評価レビューが大量にある、隠れた名店も存在しています。
日本のベーグル文化は独自の進化を遂げており、あんこや抹茶などの和風フレーバーに加え、より軽い食感のソフトベーグルなど、日本人の好みに合わせたアレンジも見られます。
コーヒーショップやカフェでもベーグルサンドイッチをメニューに取り入れる店が増えており、健康志向の高まりとともに、その人気は着実に広がっているようです。
現状、日本ではまだニッチな需要ながらも熱心なファンが多い食べ物といえるんじゃないでしょうか。実はかなりパン好きな日本人の間で、ベーグルだけが持つ独特の食感と、多彩なアレンジを楽しめる点が評価されているのではと思います。
ベーグルQ&A集 ベーグルといえばクリームチーズ?
Q: ベーグルは冷凍保存できますか?
A: はい、ベーグルは冷凍保存に適してます。
焼きたてのベーグルを完全に冷ました後、ラップで包んでジップロックに入れると、2〜3ヶ月は風味を損なわずに保存できます。食べる際は自然解凍後にトースターで軽く温めると、焼きたての食感に近づきます。
Q: 手作りベーグルは難しいですか?
A: 初心者にはやや難しいかもしれませんが、基本的な手順を理解すれば家庭でも十分作れます。
強力粉、塩、イースト、水、そして時にはモルトや蜂蜜を使用し、生地をこねて発酵させた後、リング状に成形します。重要なのは茹でる工程で、沸騰した湯に30秒から3分ほど入れてから焼き上げます。
Q: ベーグルの穴には何か意味があるのですか?
A: 穴には実用的な意味があります。生地を均一に熟成・調理するのを助け、表面積を増やして均等に熱が通りやすくなります。
また、歴史的には穴を開けることで棒に通して運びやすくなるという利点もありました。路上販売人が棒にベーグルを何個も通して売り歩いていた光景は、20世紀初頭のニューヨークでは一般的だったようですよ。
Q: ベーグルを美味しく食べるコツはありますか?
A: 新鮮なベーグルなら、まずはそのままの状態で味わってみることをおすすめします。その後、お好みでトーストするとより香ばしさが増します。
伝統的な食べ方としては、クリームチーズを塗るのが定番です。また、半分に切ってサンドイッチにするのも人気の食べ方です。
個人的にはベーグルを薄くスライスして軽くトーストし、様々なトッピングで楽しむいわゆる「ベーグルチップス」もおすすめです。
ベーグルはなぜ茹でる?【コラム】
ベーグルを茹でる理由
デンプンのゲル化であの質感とテカリ

ベーグルは茹でることで表面のデンプンが水を吸収しゲル化します。この過程ではデンプン分子が熱水と反応して膨潤し分子間の結合が変化することで粘性のあるゲル状態に変化します。
このゲル化した表面層は焼成時の急激な水分蒸発を防ぐバリアとして機能し、生地内部の水分を保持する役割を果たします。
さらに、表面が固まることで焼く際の過剰な膨張を防ぎます。通常のパンでは酵母による発酵ガスが生地を大きく膨らませますが、ベーグルの場合は表面のゲル化した層が物理的な制約となり内部構造を密に保つことができるのです。
理想的な食感に
密度の高い内部構造が形成されることで、ベーグル独特の食べ応えが生まれます。この高密度構造は、小麦粉のグルテンネットワークが茹でることによってより強固に結合し気泡が小さく均一に分布することで実現されます。
特徴的なもちもちとした食感としっかりとした皮が生まれるのは表面と内部の水分含有量の違いによるものです。
表面は茹でることで一時的に水分を多く含みますがその後の焼成で急速に脱水されて硬い皮を形成します。一方、内部は適度な水分を保持し続けることで弾力性のある食感を維持するのです。
茹で時間
茹で時間のベーグルへの影響
30~60秒という茹で時間は決して偶然ではありません。この短時間での処理がベーグルの品質を決定する重要な要素となっています。茹で時間によって食感が劇的に変わります。
長く茹でると(60秒以上)皮が厚くなり内部がより密度が高くなります。
これは表面のゲル化がより深く進行し焼成時の水分蒸発がさらに制限されるためです。結果としてより噛み応えのある、しっかりとした食感のベーグルが完成します。
短く茹でると(30秒未満)皮が薄く内部が柔らかくなります。
表面のゲル化が浅く焼成時の膨張がある程度許容されるため、よりふんわりとした食感に近づきます。ただし、茹で時間が短すぎるとベーグル特有の食感が失われる可能性があります。
重曹と苛性ソーダ 茹での科学
麦芽エキス、重曹、ライ(苛性ソーダ)を茹で湯に加えることで美しい黄金色と風味の向上が得られます。
麦芽エキスに含まれる糖分はメイラード反応を促進し焼成時により深い色合いと複雑な風味を生み出します。
重曹(炭酸水素ナトリウム)はアルカリ性を示し生地表面のpHを上昇させることで、より効率的なメイラード反応を引き起こします。これにより短時間の焼成でも十分な色づきと風味が得られるのです。
苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)はより強いアルカリ性を示しドイツのプレッツェルなどで使用される伝統的な手法です。ただし取り扱いには細心の注意が必要で、家庭では重曹での代用が一般的です。

